将棋の羽生三冠は言う。
「大切なのはそぎ落としていく作業です」。
先日の天声人語にあった言葉だ。
その言葉を見て、いくつか思い当たることがあった。
まずiPhoneだ。
iPhoneにお財布携帯のような機能を入れるべきだ、という提案をしたときに故スティーブ・ジョブズ氏は、「そのようなものはいらない」とすぐに切り捨てたと聞く。
その文章では、アンドロイドが引き合いに出されていたが、iPhoneのシンプルさは言うまでもない。
まさに至高の美しさといえるかもしれない。
さまざまな機能やデザインを引き算することで得た美しさだ。
これは、何かと同じだと思った。
白黒写真だ。
白黒写真は色彩をそぎ落とすことで、かえって情緒を感じたり美しさを感じたりすることができる。
たとえば、田舎の風景などや人間の顔もそうだ。
光と影。
また、ヴィムベンダーズの『ベルリン天使の詩』で、天使が天使として存在するときは、白黒の映像だった。
この白黒の映像には、哀愁があった。
日本人は白と黒のおりなす絶妙な世界を愛する趣向があるのではないか。
不足の美というものがある。
足りないものに美を感じる心である。
例えば、日本人が好きな歴史上人物といえば、源頼朝ではなく源義経であるし、徳川家康ではなく坂本龍馬である。
華麗で荘厳な宮殿ではなく、ひっそりと山奥にある庵などに美を感じる。
秋になり、葉の落ちる瞬間にあはれを感じる。
日本人には、そんな絶妙な感覚が備わっているのかもしれない。