ある日、羊飼いは隣村のお天気博士から、今年は天候が悪く、草がうまく育たないことを聞く。
草の生育は羊にとって死活問題だ。
羊飼いはそれを聞いて頭を回転させた。「羊を育てる場所を変えよう」。
羊飼いは遠くの天候の異なる土地で新たに羊を育てることを決意した。
しかし、問題があった。連れて行ける羊が限られていることだ。
おそらく半分ほどしか連れて行けないだろう。
乾いた風が羊たちのいる草原にふきつけた。
その羊は気持ち良さそうにいつものように、草を食べていた。
隣には仲間もいる。
太陽がまぶしい。
ふと、草を食べるのに飽きて首を上げると、遠くには羊使いと犬がいる。
羊飼いのその目つきはいつもに増して鋭い。
どこか悲しそうにも見える。
もう少し目をやると、羊の群れがどこかに移動している。
楽しいご飯の時間なのに、どこにいくのだろうか。
その羊は不思議に思いながらも、目の前の草に気づいたか、次の瞬間には、また元の姿勢に戻り、草を食べた。
羊飼いが突然、いなくなった。
羊の数も半分になっていた。
それでも当初、羊たちは、いつもと変わらない日常を送っていた。
羊飼いがいなくても、羊たちはいつもの時間に起きて、いつもの時間に草を食べて、いつもの時間に寝た。
その日常がしばらくは続いたある日、一匹の羊はあることに気づいた。
草が枯れている…!
はじめは、その場所だけだと思った。
しかし、草の枯れは一向におさまることはなく、草の枯れは広がりを見せた。
羊たちは徐々に痩せこけていき、ついには枯れ草のうえに倒れる羊も出てきた。
倒れる瞬間にある羊は、こう思った。
「なんで羊飼いは、いなくなったのだろうか。」
もしかしたら、草が枯れるのを知っているのだろうか。
今まで従順にただ羊飼いと犬の言うことを聞いてきたのに、抗ったり迷惑をかけたりなんて一度もしたことないのに、なんで、なんで連れて行ってくれなかったの?
冷たい風が羊たちのいる枯れた草原にふきつけた。
羊飼いは以前、自分が羊たちと住んでいた方角を見つめていた。
今、羊飼いのいる場所には草が青々と生い茂っている。
羊たちは、元気よく草を食べている。
以前の仲間たちの存在など忘れてしまったかのように・・・。